佐々涼子『エンジェルフライト』(集英社)カンボジア時代の医療搬送を考えながら読みました

本を読む

久しぶりに、ノンフィクションが読みたいと思い再読。

来月は久しぶりに海外に行きます。トラブルに巻き込まれないことを願う限りですが「まさか」はあるわけで……。そんなタイミングということもあり、思わず手が伸びた一冊です。

カンボジア駐在のとき感じた「死」との近さ

カンボジア駐在のとき、カンボジア国内で治療が難しい病気やケガで倒れた日本人の知人や同僚が特別機で隣国のタイに運ばれる様子を見ていました。

私が滞在していた時期は救急車がなくケガをしたり病気になると、車を運転できる人が海外旅行保険が使える病院に連れていきます。いわゆる、外国人向けのクリニックです。私は車を持っていたので、病院に連れていく役になることが多かったです。

外国人向けのクリニックとはいえ、検査ができること自体限られていました。ぎっくり腰になった友人を連れて行ったとき、レントゲンがないので、地元の病院に行ってくれと紹介状を渡されました。その病院に行ったら「レントゲンは故障しているのでここでは対応ができない」といわれ、別の病院に行くよう指示されました。

首都プノンペンとはいえ、道は穴だらけ。舗装されていないがたがた道を通り、病院をたらい回しになった、ぎっくり腰の知人が不憫でした。

また、意識不明となった知人もいました。午前中にめまいを起こし、あまりにも具合が悪くなったので、早退して帰ろうとしたそうです。あまりにも顔色が悪いのでカンボジア人の同僚が、会議室で一旦休ませました。

カンボジア人スタッフから報告を受けた日本人スタッフが同僚の様子を見て瞬間「これは脳かもしれない」と直感で思ったとか。病院に連れて行きましたが、当時は脳のスキャナーがカンボジアにはありませんでした。

また、問題はパスポートです。

カンボジアから国籍のある日本まで直行便であればパスポートなしでも飛べる可能性があるようですが、当時は直行便がなく、第三国であるタイのクリニックに行くことになりました。

パスポートがない状態で第三国に入国するのはNGなのです。

しかし意識が朦朧としているためどこにパスポートを保管しているのか聞きだすことは困難でした。そこでスタッフたちが部屋に行ってパスポートを探しましたが、海外にいたら命の次に大切なパスポート。すぐにわかる場所にあるはずがありません。

日本大使館がパスポートなしでタイに飛べないか交渉をするのと同時進行でパスポート探しを行いました。

なんとかパスポートを見つけ、大使館と病院に連絡します。

いつもでしたら通常のフライトに席が用意されるのですが、このときは違いました。

「タイ航空の飛行機が一機、カンボジアに飛んできます」

そう、特別機で医療搬送されることになったのです。

私はその知人の医療搬送の現場に立ち会いました。

真夜中に遠くの空から光が近づいてきます。

タイ航空の飛行機が一機、現れ、人気がなくなったポーチェントン空港に降り立ちました。

飛行機からタイのドクターが降りてきます。

そしてカンボジアサイドのドクターとカルテの確認をはじめました。

「午前中に倒れても、真夜中になるまで病院にも行けないのだ」そんな苛立ちを覚えました。

実際飛行機が飛んでからタイのバンコクにつくまで約1時間。そこから車で病院までの移動です。

「死」が近い国だな。無意識につぶやいた言葉です。

知人が倒れた日は金曜日でした。そのときカンボジア人スタッフに止められず、家に帰っていたらどうなっていたでしょう。

それを思うとぞっとします。

そしてその経験は、誰もが体験する可能性があるのです。

現地では、日本人駐在員の「死」の話はタブーでした。というか、誰もが「死なずに生きて帰る」と信じていました。(信じていないとやっていけなかった)

でも、不慮の事故で亡くなるという万が一のときを思うと、自分の体がどのように扱われ、日本に戻ってくるのか(戻ってこれるのか)を知ることも一つの重要な情報だと思います。

海外赴任者必読の一冊。

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