オランダで虫垂炎の緊急手術を行うことになった私。
まぁ、手術をやると決まってしまえば、早いもので、すぐに入院となりました。日本では局部麻酔で虫垂炎の手術をすると聞いておりましたが、オランダでは全身麻酔でした。これは小市民の私としては、助かったかな。呼吸器をつけられ、3息くらいしたら、すっと寝てしまいましたからね。
どれくらい時間が経ったのか、目を覚ました私は病室のベッドの上でした。体を起こそうとしましたが、「あああ~、痛いよぉ」。手術のあとが疼きます。怖くて傷口も見られない私。大きな絆創膏がはってありましたが、うっすらと血が。
こわい、こわい、こわい、こわい、いたい、いたい、いたい。
起き上がろうとするたびに、お腹に力を入れる必要があるわけです。そこで、私が恐れたのは「腸が飛び出ちゃったらどうしよう」ということです。
それもここは異国です。オランダは英語を理解する人が多い国です。でももしかしたら第一発見者は英語を解さない、たまたま私の入院している部屋の前を通ったお見舞いできた人かもしれません。いや、どんな事態であれ、今の私がオランダ語で助けを請うことは語学力的にも無理でしょう。
最低限英語で叫ぶ術を早急に習得する必要がありました。
My intestines come out from my body! Please help me.
腸=intestines
とりあえずこのフレーズを作り、何度も口ずさみ、体に刻み込むようにしました。また言葉を発することができなかった時のために、テレビ局のADのように紙に書いて出せるようにしました。
手術後の疲れきった私の顔は、3日3晩徹夜を余儀なくされたバラエティー番組のADそのものだったかもしれません。
ともあれ入院は暇です。テレビをつけても、外国語なので気がめいってしまいます。またずきずきとした痛みと異国の病院に一人でいる孤独感は平行しているようです。何もすることがないと、痛みとだけ向き合わないといけないからかもしれません。
その時、部屋に入ってくる人影が見えました。
「さち、大丈夫?」
一緒にオランダで学んでいた日本人の学生でした。意識が戻ったと先生から聞いて、バスを乗り継ぎお見舞いに来てくれたのです。
みんな心配している。でも授業のことは考えなくてもよい。ノートも貸せる。先生も授業を受けられない分のことを考慮してくれている、と学校の様子を教えてくれました。
また異国の地で入院とはさぞかし大変だろう。また時間ももて余しているだろうから、日本から持ってきた本をプレゼントしよう。
そういって日本語の本を渡してくれたのです。
乾ききった大地に、スコールが降りそそいだかのように、私は心の渇きが潤いで満たされる感触を味わいました。
「この本を読んで、笑顔になってほしい」
そういって友人は、病室を後にしました。
手もとを見ると、そこにあった本はVOW。
1992年のVOWが見つからなかったので去年出されたものの表紙。
VOWとは「謎の看板やアンビリーバボーな誤植など“街のヘンなもの! “投稿企画の元祖」。
変な看板や誤植を、ただ、ひたすら紹介している本です。
1ページめくっただけで、笑いがこみ上げてきます。でも人間、笑うためには腹筋を使うんですよ。
病室で、
うひゃぁぁ、面白い。うぎゃぁぁあぁぁ、痛い、いたいよぉ
と、叫ぶ私。
その内、気がついたのです。
「腸が飛び出ちゃったらどうしよう」
Oh, my intestines might come out from my body!
うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、うぎゃぁぁあぁぁあぁぁあぁぁ
「この本を読んで、笑顔になってほしい」じゃないよ。あぁ、このままでは、
Oh, my intestines really might come out from my body!
英語は正しいかもしれない。でも私のこの動きは、おかしい。
それから5分後。
私は腹筋を使わず、「ひーひーひー」肩を上下しながら笑うコツを習得していたのです。痛いんだったら、読むのを中断しろよ!
その技を習得しなければ、私はマジで腸が体から出ていたかもしれません。
誰も気がつかれずに、そうなってしまった場合、私を発見してくれたオランダ人はびっくりするでしょう。警察が来てこういうかもしれません。
「謎は解けた!縫合の失敗。医療ミスだ」
私は天からその様子を見て、叫ぶでしょう。
「ベッドの下に転がっているVOWだよ」、と。
完
こちら昨日のブログの続きとなっています。こちらもご覧あれ。
鎌倉家のいい伝えを破り、緊急手術。杉田玄白に、我が命を託せるか?
それから結構、読んじゃってるのよ。VOWを。
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