ドキュメンタリー映画の巨匠・フレデリック・ワイズマンが描いた作品「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」のメディア向け試写会に招待をいただきました。
映画は英語で進行していきます。日本語の字幕が出ているのですが、私は極力、字幕を見ずに英語を聞きながら内容を追いました。
今回は、「英語の会話」のなかで繰り返し使われていた言葉を紹介します。
この映画の中で、ニューヨーク公共図書館のさまざまな活動、美しい諸室、司書たちの仕事ぶりが映し出されます。この「画像」だけを追い、きれいだな、楽しそうだなと感じるだけではなく、司書や住民、図書館の幹部の会議で繰り返し使われてきた言葉にある「ニューヨーク公共図書館の哲学」の部分を感じてもらえれば、さらに図書館への理解が深まると思います。その一助となれば幸いです。
この映画では幹部たちの会議のシーンが出てきます。まさに図書館の心臓部分となるこの会議で、どのような議論が行われているのか垣間みられるのがこの映画の素晴らしいところです。
ニューヨークのホームレス問題、インターネットの普及等、さまざまな議論の中でいつも出る言葉が「Our Role(私たちの役割)」です。
ニューヨーク公共図書館はどのような役割を果たせるのか、という視点から議論を深めていく姿があります。「図書館とはなにか」というシンプルな問いを、これだけ繰り返し真剣に議論しているからこそ、強固な土台が出来上がっているのだと思わせてくれます。
2009年代44代アメリカ合衆国大統領となったバラク・オバマが取ったオープンガバメントでは、連邦政府が保有するさまざまな情報を公開し、すべての人が容易に情報を検索・入手できるようにしました。
このオープンガバメントはTransparency(透明性)、Participation(参画)、Collaboration(協働)の3原則から成り立っています。Transparency(透明性)が担保され情報がオープンになれば、国民自らが自分で暮らす地域の課題を知り解決のためにParticipation(参画)したり、政府と利害関係者同士がCollaboration(協働)することで課題解決に向けた具体的なアクションが生まれるとオバマは信じてこの政策を打ち立てました。
さて幹部たちの会議で、民間からの寄付が集まった話になったとき、幹部の一人が「透明性を保てたことが誇り」といっていました。
Transparency(透明性)を担保し、出せる情報はすべて公開したからこそ、住民が寄付をするというParticipation(参画)を生み出したのです。
また、映画の中でParticipation(参画)から、Collaboration(協働)を生みだすアイディアが飛び出していました。どのシーンか、ぜひ探してみてください。
ニューヨーク公共図書館とオープンガバメントの3原則は、改めてブログで記事を書きますので、少々お待ちください。
職員たちが集まる大きな会議で、出ていた言葉です。
Community engagementは、よりよい地域社会をつくるための活動と訳されます。Advocacyは、日本でそのままアドボカシーと使うことが増えてきました。アドボカシーは権利擁護、政策提言と訳されます。権利擁護は、本来、人が持ってしかるべき権利が失われていることを是正したり、失われることがないように主張したりすることを指します。政策提言は、権利擁護のため、制度の中で支える仕組みを構築していくための取り組みです。
司書たちが集まる大きな会議で、一人の職員が図書館のさまざまな活動についてふれ「私たちの図書館での活動、予算委員会に出ること、私たちがやっていることすべてがCommunity Engagement and Advocacyです」と発言していました。
みなさんの図書館で読み聞かせは何のためにやっていますか?会議な何のために開かれていますか?
「よりよい社会をつくり、人権擁護・政策提言のため」と胸を張って答えられていますか?
幹部会議で電子書籍も含め蔵書をこれからどのように構築していくか議論のシーンがありました。
ある幹部が「ベストセラーを大量購入すれば貸出数や利用者数はうなぎのぼりだ。でも、そこにリソースを投入すると、専門書が買えなくなる。でも10年後、その専門書を必要とした人たちにそれが渡らないのが問題ではないのか。ベストセラーは置かなくてもどうにかなる」という発言のあとに「私たちにはSocial responsibility(社会的責任)がある」と加えていました。
蔵書構成、イベント等のアクティビティ一つひとつに、図書館の役割や社会的責任を重ね合わせ「何をやるべきか」の議論がされているように感じました。
財源の半分をニューヨーク市から、半分を民間からの支援を受けて運営されているニューヨーク公共図書館ですが、財源の確保、与えられた財源の配分には苦労している姿が映画の中で映し出されています。
しかしいなるときも「Sustainability(持続可能性)の視点を忘れてはいけない」と幹部の一人がいっていました。予算がないからやめたという単発的な考えでは利用者が困惑してしまいます。いかにSustainable(持続性)を担保できるかを常に問うている姿がありました。
幹部会議で「来年度の計画を話しましょう」という字幕が出るシーンがあります。計画を訳すと「Plan」ですが、会話の中では「Story」が使われています。
「来年度のものがたりを話しましょう」だと何のことかわからないので「計画」と訳されたのだと思います。(その気持ちは、わかります)
ニューヨーク公共図書館が描いているのは「計画」ではなく、よりよい社会をつくり、人権擁護が実現されるための壮大なストーリーなのだと納得しました。
市が管理・運営する施設ではなく、独立法人として市と民間からの資金で運営しているニューヨーク公共図書館のみんなが意識しているのが「Public(公共)」という言葉です。
だからこそ一般公衆に対して開かれた場所とはどんなところかという視点からの議論がなされていました。
映画を見ながらメモを取れなかったので、あくまで記憶ベースです。ただぜひこれらの言葉はニューヨーク公共図書館を表すキーワードだと思いますので、映画の中で探していただけると嬉しいです。
映画『ニューヨーク公共図書館』の公式ウェブサイトに最新の情報が載っていますので、ぜひご覧ください。
http://moviola.jp/nypl/